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Uberが麻薬取引に使われた日。大麻をデリバリーサービスのバッグで配達 売人が明かした“安心安全”な手口

違法薬物の大麻が、一般の生活様式に紛れ込んで流通している。大半の人にとっては、芸能人の逮捕でニュースになる以外は接点はなく、どこかアンダーグラウンドでの出来事、というのがおおかたの印象だろう。それが昨年あたりから、売人たちが街中を平然と行き来し、私たちの目の前で取引しているケースが増えているという。コロナ禍でさらにやりやすくなっているというその手口とは。

* * *

 昨年夏、筆者は大麻の売人をしている男との接触に成功し、その後、何度か取材を重ねてきた。

 最初に会った時、自転車で現れたその男は、あるフードデリバリーサービス会社のロゴが入った大きな箱形のバッグを背負っていた。年齢は30代前半くらい。よく街中で見かけるフードデリバリーの「配達員のお兄ちゃん」にしか見えない。

「このロゴが入っているだけで信用度が増すので、警察の職務質問に合う可能性がかなり低くなるんです」

 バッグを指さしながらそう話した男の配達員としての見かけと、実際の顔は大麻の売人という現実がどうにも一致しない。薬の売人といえば、どこか独特の雰囲気が出てしまうものだが、この男は、配達員としてまったく違和感がなかった。自転車で走るこの男を警察官が見かけたとしても、不自然さを感じることはないだろう。

 しかし、バッグの中には、食料品ではない非合法なモノが詰め込まれており、違法な取引を繰り返しているのだ。

 売人の男によると、フードデリバリーのバッグを使った違法薬物の「配達」の手口は、1度目の緊急事態宣言が出された昨年4月くらいから出始めていたという。

 今年1月に入り、2度目の緊急事態宣言が出ると、午後8時以降も開いている飲食店はめっきりと減った。テレワークも相まってか、食事でフードデリバリーを利用する人が増えたようで、配達員の数も多くなったとみられる。

 一方、配達員の数が増えれば増えるほど、彼ら売人が怪しまれるケースは減っていく。

 こうした現状について売人の男は、

「違法薬物を“安心・安全”に運べる状況になっている」

 と話した。売人たちにとっては、皮肉にもコロナ禍での自粛が好都合になっているのだ。

 大手フードデリバリーサービスのロゴの入ったバッグは、元々はデボジット(保証金)を運営者側に払い、借りるバッグであったが、返却されないケースも多く、フリマサイトなどを通じて市中に出回った。それは、購入される金額が、デボジットの額を上回るケースが多いからだ。

 いまでは、これらのバッグは大手通販サイトで購入することができる。ロゴが入っていなければ3千~4千円。大手フードデリバリーサービスのロゴが入っていれば8千円弱で売られている。新品にこだわらなければフリマサイトやオークションサイトで5千円前後だ。

 大麻の売買の現場といえば、クラブや路上、駐車場などが多いが、路上や駐車場は職務質問に合いやすく、防犯カメラにも映りやすいというのが難点だった。

 また、やましいことをしていると、どうしても人の目を避け、逃げるような行動になるといい、駐車場でも奥の方、奥の方へと行きがちになる。繁華街などを抱える警察署は、そうした点を見逃さないのだ。

 売人たちは、大麻を運ぶ際も色々と気をつけなければならなかった。

「以前は車やバイク、電車などで配達をしていました。だけど車やバイクは警察に止められるケースも多く、電車は駅などたくさんの防犯カメラがあって、受け渡しすら監視されています。だから自転車が一番フットワークも軽く、防犯カメラにもあまり引っ掛かりません」(前出の売人)

 前述したように、フードデリバリーサービスの会社名が入ったバックを背負っていれば、どこかの飲食店の料理を運んでいるようにしか見えない。外見だけでは、職務質問に合う心配はほとんどないのだろう。

 利点はそれだけではない。売人の男が語る。

「これらのバッグの防水性・保湿性・収納性も大麻の保管にとっては非常に適しているんです」

 こうした実用的な面を踏まえた上で、さらに別の理由もあると話す。

「格好ですよ、ファッション性です。元々大麻はアメリカなどではストリートドラッグとして使用されています。だからアメリカが発祥のバッグを持っていることにも意味があるんです」

 彼ら大麻の売人はSNSなどで、あるキーワードを入れると検索に引っかかる。

 自分がいる都道府県名と「野菜」「草」「手押し」などがそのワードだ。野菜、草などは大麻の隠語であり、手押しは配達という意味だ。つまり手押しという言葉を使うと、大手フードデリバリーサービスのバッグを持った人間が配達してくるケースがあるわけだ。それも時間厳守だという。前出の売人が説明する。

「夜間に配達するときは、暗い裏道などは避けて、信号などの交通ルールは必ず守ります。見た目も通常の配達員より清潔な格好をしてますよ。都内の売人がいる場所から1時間以内の範囲であれば、必ず約束した時間内に届けます。違法薬物を欲している人は、すぐに配達しないと注文先を変えるので」

 配達先が、注文者の自宅とみられるマンションだったケースも少なくないという。玄関先でのやりとりとなれば、いよいよ飲食物のデリバリーとしか見えない状態だ。

 さらに、彼ら売人の行動範囲は東京都内だけに収まらない。大阪や地方都市などにもネットワークを張り巡らせており、注文などを受けることができる、と売人は付け加えた。

 このように全国的な販売網をつくるのは、それだけ需要があるということなのだろう。

 法務省が昨年11月に発表した2020年版の犯罪白書には、19年の大麻取締法での検挙者数が前年度比21・5%の伸びで過去最多の4570人だったと書かれている。特に検挙者数の半数以上は20代が中心の若い世代で大麻が広まっている傾向がみられる。

 SNSで注文すれば、怪しまれずに簡単に配達してもらえて手に入る大麻。

 当然だが、これらの犯罪の責任がフードデリバリーサービスにあるわけではない。サービスが有名になり、信用があだとなって犯罪に利用されてしまったのだ。

 ただ、このような自社ブランドのロゴが入ったバッグが薬物の違法取引に使われていることを、大手フードデリバリーサービスは把握しているだろうか。さらには、バッグが転売されていることについてはどう考えているのだろうか。

 問い合わせると、運営会社から以下の答えが返ってきた。

「大変申し訳ありませんが、個別の事案についてお答えしておりません。ご理解賜れますようお願い申し上げます」

 今回のようなデリバリーサービスのバッグを使った手口についての摘発事例はまだ聞いていないが、一度でも摘発されたら、その方法は使えなくなるのだろう。

 そして、売人たちはまた新たな方法を考える。まさに捜査当局とのいたちごっこが続くのである。(花田庚彦)