「教え魔」ということばがある。
多くの人には、あまりなじみのない文字列であるかもしれない。「頼んでもないのにあれこれと教えてくる人」のことを指した単語である。先日のNHKニュースで「教え魔」が取り上げられ、SNS上で一気にそのワードが拡散した。
「教え魔」は、たとえばボウリング場やゴルフ場などの趣味・レジャー施設や、登山・ハイキングなどのアウトドア系の領域で、初心者らしき人を見つけては、手取り足取りコーチングをやりたがる人びとのことを指している。「親切な人」ではなくて「教え魔」と命名されていることからもわかるように、コーチングを受ける側は、「自分なりに楽しむ」という機会を奪われて迷惑がっているのである。
「教え魔」自体は、上述したような趣味や活動に参加している人びとにとってはすでに定着したワードだったようだが、改めてメディアで取り上げられたところ、各所から「いるいるこういう人!」と大きな反響があったようだ。
個人的に楽しむためにやってきた場所で、突然見ず知らずの人に「指導」を受ける羽目になってしまうとすれば、たしかに迷惑この上ない話である。実際、こうした施設ではしばしば「教え魔」に対する苦情が発生しており、「教え魔」のせいでその趣味から撤退してしまった人すらもいるという。ありがた迷惑、小さな親切大きなお世話とはまさにこのことだ。
「教える」ことは、気持ちいい
「教える」という行為は、想像する以上に認知的報酬が大きい営みだ。
だれかに「教える」ことができれば、教えている相手よりも自分が対人関係的には優位であり、能力的にすぐれているという確信を与えてくれる。また、「教える」という営みを通じて自分がだれかの役に立っている自己肯定感も与えてくれる。
趣味の空間にかぎらず、職場でも新入社員に対して「頼まれてもいないのにあれこれアドバイスをしたがる人」が高確率でひとりやふたり現れるのがつきものだが、こうした人は自己有能感や自己肯定感が日常的には著しく欠乏しており、初心者がやってきたときに「教える」という行為によってそれらを補給しようとしている。
BLOGOSの読者で、今月から新社会人・新入社員の人もいるだろうから、くれぐれも覚えておくとよい。入社早々やたら親しげに接してきて、頼まれてもないのにあれこれ世話を焼いてくれる人は、周囲から有能とは思われておらず、また組織のなかでも肯定的な評価を受けていない人である可能性が高いと。
キャンプ場に現れる「ベテランキャンパー風教え魔おじさん」
「教え魔」がいま出没している場のひとつが、「キャンプ場」だと言われている。
近年になって若い女性のあいだで「ソロキャンプ」が流行しつつあり、タレントからYouTuberまで数多くの「女性キャンパー」が活躍している。女性でも軽量で扱いやすく、またおしゃれなアイテムも多数増加している。
こうした背景も手伝ってか、ひとりでキャンプを楽しむ女性のもとに、とくに中高年男性のベテランキャンパー風の「教え魔」がやってきて、やたらとコーチングやアドバイザーを買って出て嫌がられる――という事例が発生しているようだ。